映画「アルゲリッチ 私こそ、音楽!」を観て...

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先月27日からBunkamuraのル・シネマにてロードショー中の
「アルゲリッチ 私こそ音楽!」を観に行きました。
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クラシック好きなら、その名を知らない人がいない名ピアニスト、マルタ・アルゲリッチ。
彼女のドキュメンタリー映画です。
この作品は、アルゲリッチの三女ステファニー・アルゲリッチが監督しています。
この偉大な音楽家で母親であるマルタの日々の姿を、娘が3年かけてフィルムに収め作品にしました。

インタビュー形式で、ステファニーの問いかけに対してマルタが自分のことを語るシーンが随所にあります。
いったい彼女は何を感じ、考えたのか?嫌いなもの、好きなもの...
マルタという謎の人物を、言葉の断片から読み解く面白さのある映画です。

そして、3人の娘達の葛藤が、リアルでありながら悲劇的ではなく、淡々と綴られているところに、この作品のすごさを感じるのです。
実際、娘達の人生は、想像もできない葛藤と困難を乗り越えたものだったと思います。

※この後は、ストーリーの(ネタばれ)も含まれるので、それでも構わない方だけ読んでくださいね。

長女リダは、まだマルタが23歳の時産んだ子で、産後すぐに養育院に預けられました。(産んだ翌年に、ショパンコンクールで優勝しています。)その後、マルタの母(つまり祖母)が養育院から無断で孫のリダを連れ出すという(誘拐)事件を起こし、マルタは親権を失い、その後母子は会う事もままならない状況で離れて暮らす事となります。
リダは、ある年齢まで母親が有名なピアニストのマルタであることも知らなかったのだそうです。父親(ロバート・チェン)はピアノを習いたかったリダに「やめたほうがいい。母親には絶対勝てない」と言って、他の楽器をすすめたといいます。私はその言葉を言われたリダの気持ちを考えると、胸が苦しくなります。
彼女はその後、ヴィオラ奏者として生きる道を選び、現在は母親との共演もしています。
異父姉妹(アニーやステファニー)と実際に顔を合わせたのは、10代も後半になってからだったと映画では回想しています。

次女のアニー・デュトワは、シャルル・デュトワの間に産まれた娘で、その後産まれる三女ステファニーと共に、母親の元で一緒に暮らし育ちます。忙しい母の代わりにアニーが妹の面倒をみてきました。

三女ステファニーの出生届けの父親欄は不明と書かれています。
「なぜそう書いたのか?」という質問に対して、「面倒だったから...」というような返事を返す母。
でも、ステファニーはそれをそのままにしておくことができないのです。
アルゲリッチ姓を名乗る彼女は、最近父親と法律的にきちんと親子になる為の手続きをすすめています。
しかし、父親(スティーヴン・コヴァセヴィチ)がなかなか段取りよく書類を揃えることができないことに娘はもどかしさを感じ、ついに感極まってダイニングテーブルにうつぶして泣き出すシーンがあります。
そのシーンはなんともせつなく、私がこの映画に引き込まれた瞬間でした。

最後の方に、マルタが裸足で(自宅らしきところ?の)ピアノを弾いているシーンがあります。
たしか、曲はラベルのコンチェルト2楽章のあの美しいソロの部分。
自分でも理由が分らないのですが、涙が出ました。
あれは、コンサートホールで聴衆を前にして弾く演奏とはまったく異質の音楽ー心が震えます。

マルタ・アルゲリッチという人は、実に正直な人なのだと思います。
未熟な母親の部分もひっくるめ、正直に子どもと相対した結果、娘3人は母親を愛してやまないのだと思います。

一つこの映画に対して注文をつけるとすれば、それは「私こそ、音楽!」という邦題がまったくピンぼけな感じのすることです。原題は「Bloody Daughter」というタイトルで、正確にはなんと訳したらいいのかよく分らないのですが、血とか、血縁とか、そういうことがベースにある作品なんだと思うんです。
マルタの音楽を讃歌するような作品とは、ちょっと違うと思います。

もし"Bloody Daughter"の言葉の意味をご存知の方がいらっしゃったら、
ぜひメールくださいね!

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このページは、Nancyが2014年10月 7日 17:56に書いたブログ記事です。

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