A.スクリャービン没後100周年記念ピアノソナタ全曲演奏会 Vol.I

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4月27日はロシアの作曲家アレクサンドル・ニコラエヴィチ・スクリャービンの命日。
1915年に亡くなったので、今年は没後100年目の節目に当たります。
そんな特別な日に、江戸川橋のトッパンホールで開催された掛谷勇三さんによるオールスクリャービンのピアノソナタ・リサイタルに出かけました。

 スクリャービンは、同じロシアの作曲家ラフマニノフに比べ、日本での知名度はあまり高くなく、一般的に知られているとは言えない作曲家です。実はラフマニノフとは1歳違いで、同じモスクワ音楽院で学ぶ同級生だったそうです。没後100年というと一昔前の時代の人のように感じるのですが、スクリャービンは43歳と非常に短命だったため、69歳まで生きて近年までその足跡を残しているラフマニノフと同時代というと、ちょっと意外な気がするのです。そんな短い生涯にあって、その作風は、特に晩年の作品においてはまったくラフマニノフとは異なる、無調で現代音楽の先駆け的な独自の音楽世界を築きあげました。
スクリャービンの作品は、圧倒的にピアノ曲が多く、その大半は小品です。
その中にあって、ピアノソナタの(作品番号のついている)10曲は作曲の年代毎に、その独自の音楽世界を象徴する代表作として、近年高く評価されてきています。
正直、あまりリサイタルで聴く機会が多いとは言えないこれらピアノソナタ10曲を、2回に分けて全曲演奏しようという大変な試みに挑戦するピアニストの方がいらっしゃることを知り、これは足を運んでみたいと思いました。
演奏会に行くと、よく入口でごそっと束でフライヤーを渡されますよね。たしか、そんな中に今回のリサイタルのチラシがあったと記憶しています。
よく見ると、『入場無料』と書かれていて、トッパンホールで、しかもこれだけの演奏プログラムで無料とは?俄かに信じがたい気分で、チラシに記載の問い合わせ先にお電話して、チケットをお送りいただきました。

掛谷さんのお名前は存じあげませんでしたが、プロフィールを拝見すると、バドゥラ=スコダ氏に指導を受けたご経験もあり、2002年に生誕130周年を記念したスクリャービンピアノソナタ全曲演奏会、翌年2003年にはラフマニノフの生誕130周年を記念したピアノ独奏作品全曲演奏会を開催されており、演奏家としてご活躍されていることが伺えます。現在は、愛知県立芸術大学准教授をされており、実力のある方のようなので、プチフリークとしては、とても今日のスクリャービン楽しみにしていました。

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この日の演奏曲は、ピアノソナタ6番、1番、休憩を挟んで後半10番、8番、4番の計5曲。

素晴らしい演奏でした。
冒頭6番で、あまりの美しさに衝撃を覚えました。
この6番をCDで聴いた時には、メロディーははっきりせず(けっして暗譜ができないであろう...)面白みに欠ける曲。
「今日の演奏会の天城越えは、6番と8番だな」と心の中で囁いてしまうほど、つまらない曲と思って臨んだのですが、生の演奏で聴くこの曲はまったくその考えを覆すものでした。す〜と身体に入ってくる美しい音楽でした。音を楽しむ、とはこんな感じかな〜と思いました。

つづく1番。重〜く、暗〜い曲。まだ若かったスクリャービンが右手を痛めて、ピアニストとしての将来を絶たれたかに思えた絶望の淵に立たされた時期に作られた曲で、その心の苦悩が象徴されていると言われています。あまりに陰鬱なため、本人も公の場で演奏することはなかったとか。そんな曲ですが、個人的には嫌いではなく、天才スクリャービンの才能を感じさせる力作だと思っています。一時期、ラザール・ベルマンの演奏をCDでよく聴いていました。

後半の10番。
この10番は、私にとってホロヴィッツの名演奏が常に頭の中にある作品。
掛谷さんの演奏は、実にピュアで、心に浸みる演奏でした。
8番は難解な曲。ここは無理せず(笑)頭は使わず、心を無にして、音と音の響きを楽しみました。トリルが綺麗。
4番はソナタの中で好きな1曲。比較的明るく、パッション満載の盛り上がれる曲です。最後のコーダの部分は、否が応でも気分が高揚します。
本日の演奏会の最後に相応しい曲。
見事この5曲を、弾き終えた掛谷さんに盛大な拍手を送ります。
もっと聴きたかったくらいです。

「アンコールは準備していなかったので...」と、申し訳なさそうにご本人がおっしゃっておられましたが、この5曲の完成された演奏っぷりから想像しても、どれだけの準備をされてこの日に臨んでこられたのかは測りし得ず、とてもアンコール曲までの余裕はなかったに違いありません。
しかも、プログラムの特性上、スクリャービン以外でというのもないでしょうしね。

10月6日(火)19:00〜 同じくトッパンホールで、残り5曲のピアノソナタ全曲演奏会 Vol.IIが予定されています。
ぜひ続きを楽しみにしています。
その時は前奏曲から1曲アンコールで弾いていただけないかなあ〜贅沢でしょうか?

話はかわりますが、演奏会場としてのトッパンホールは、音の響き方が、実に美しいホールだと思いました。
ヘリンボーン柄が美しい客席床も、すごく音が反響して、うっかり演奏中に物を落とそうものなら大変なことに....フライヤー1枚でもけっこう音が気になるので、観客側もちょっと注意しなくてはいけません。無神経な方とはご一緒したくないホールですね。

客席408席。ピアノはSTEINWAY & SONS のD-274。

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本日の演奏会
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A.スクリャービン没後100周年記念ピアノソナタ全曲演奏会 Vol.I

日時:2015.4.27(月) 19:00開演 トッパンホール
ピアニスト:掛谷勇三 http://www.geocities.jp/yuzopiano/

【演奏曲】
スクリャービン:ピアノ・ソナタ 第6番(Op.62)
スクリャービン:ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調(Op.6)
      == 休憩 ==
スクリャービン:ピアノ・ソナタ 第10番(Op.70)
スクリャービン:ピアノ・ソナタ 8番(Op.66)
スクリャービン:ピアノ・ソナタ 4番 嬰ヘ長調(Op.30)

このブログを書きながら、先日の六本木アートナイトで感じた違和感の原因がなんとなく分かりました。
インスタレーションでも、映像でも、絵画でも、音楽でも、形はどんなものであれ、やはり人に何か感じさせるパワー(感動?)のないものが氾濫しているように思うのです。ITやコンピューターに依存したような作品や、奇をてらったような作品が最近とみに目に付きます。
私にとってのアートとは、身体全体で感じる情熱だったり、感性だったりするのだということ。
手段が大事なのではなく、五感に感じるものを大事にしたいです。
そういうアートにこれからも出逢っていきたいです。

このブログ記事について

このページは、Nancyが2015年4月28日 09:02に書いたブログ記事です。

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