2015年7月アーカイブ

 最近、広尾の日赤医療センターに行く機会が増え、港区のコミュニティバスである"ちぃばす"を利用すると表参道や六本木からのアクセスが便利なことを知り、すっかり気に入って利用するようになりました。この日も日赤に行く前に、六本木ヒルズにある森美術館でつい一昨日から始まった「ディン・Q・レ展 明日への記憶」を見ていくことにしました。
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 ベトナム人アーティストであるディン・Q・レ氏の作品は、いずれもベトナム戦争と深い関わりのあるものが多いです。
戦争へのアプローチの仕方は様々あると思いますが、ややもすると残虐性や暴力性、非人道性、殺戮などにクローズアップされがちな「戦争」というテーマ。
レ氏の場合、自己のメッセージを全面に打ち出すような作品ではなく、むしろ事実を積み重ね構築していく映像作品であったりインスタレーションです。関係者へのインタビューや綿密な調査をベースに作り上げている作品は、ドキュメンタリーにも近い実体験を伴うリアルな表現となっています。

 映像作品《農民とヘリコプター》(2006)や《父から子へ:通過儀礼》(2007)、「ようこそベトナムへ」の一連の展示作品や写真、「アーティストと戦争」で展示されていた《光と信念:ベトナム戦争の日々のスケッチ》(2012)と《闇の中の光景》(2015)などが大変印象に深く残っています。

紡がれた記憶 Woven Memories
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入ってすぐに展示されているのは、「フォト・ウェービング」シリーズ(Photo-weaving Series 1989年~制作)と「巻物」シリーズ(The Scroll Series)。
ベトナムの伝統的なゴザ織の技法から着想を得た、写真を帯状に裁断し織り込んだ「フォト・ウェービング」シリーズで、彼は一躍注目されることになりました。



ヘリコプターをめぐる物語 Story of a Helicopter
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《農民とヘリコプター The Farmers and the Helicopters》の実寸大ヘリコプター(2006)
 ベトナム戦争のアイコンとも言えるヘリコプター。自作のヘリコプターの開発に挑むベトナム人男性を中心に、ベトナム人と戦争との複雑な関係を巧みに描き出した映像は、国際的な出世作と言われています。



戦争の影 Behind the War
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《傷ついた遺伝子 Damaged Gene》(1998)
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《ベトナム戦争のポスター Vietnam War Posters》(1989)
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《父から子へ:通過儀礼 From Father to Son: A Rite of Passage》(2007)

 この「戦争の影」というタイトルのもとでの展示群は、彼がまだ若い頃のもので、その後の活動を理解する上でも重要です。  《傷ついた遺伝子》(1998)は、枯れ葉剤散布による悲劇を物語るものとして、レ氏の作品のなかでも最もメッセージ性の強いもの。ショッキングな作品でもあります。
 《ベトナム戦争のポスター》(1989)は、彼がまだ亡命先のアメリカで学生だった頃の作品で、アメリカ人の視点から語られるベトナム戦争に疑問を持ったことがきっかけで作られています。
 《父から子へ:通過儀礼》という映像作品は、レ氏の鋭い洞察力、視点に驚いた作品でした。ベトナム戦争を題材にしたハリウッド映画『地獄の黙示録』(1979)と『プラトーン』(1986)。大きなスクリーンの左右にそれぞれの映画が編集されて写し出されています。それぞれの映画の主人公を演じたマーティン・シーンとチャーリー・シーンは実際に親子であることに注目し、戦争体験を共有する親子に迫ります。別な映画にもかかわらず、似たようなカメラワークのシーンが左右で同時に親子が映し出されるように編集されており、鑑賞者はいつしかこの2人が同じ体験を共有していることに気づき不思議な感覚に陥ります。アメリカでは親が戦争を体験している子供が軍人になるケースが多く、 これは父や祖父が体験したことを知ろうとする若者の心理にせまった問題提起の作品と言えます。



漂う民 Drifting Away
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《抹消 Erasure》(2011)
海に見立てた膨大な写真のインスタレーション。その中から、鑑賞者が1枚を拾い、箱に入れると、ウェブサイト上でアーカイブとしてアップされる仕組みになっています。



運命のヘリコプター Fate of Helicopters

《南シナ海ピシュクン South China Sea Pishkun》(2009)それから、《南シナ海ピクシュン》(2009)
 この作品を昨年の"横浜トリエンナーレ"会場で初めて見たのですが、ヘリコプターが次々に海に落ちていく映像はインパクトがあり、てっきり(画面に映っていない敵に)撃墜されている様子なのだと思っていたのですが、今回「ピクシュン」という言葉の意味を知り、今回理解することができました。



ベトナム戦争の変容 A New Version of the Vietnam War
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《人生は演じること》(2015)の展示
《Everything Is a Re-Enactment》(2015)



ようこそベトナムへ
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《お気の毒(「ミレニアムにはベトナムへ」シリーズより)》(2005)
《So sorry(From the series Vietnam Destination for the New Millennium)》(2005)
"So sorry to hear that you are still not over us. Come back to Vietnam for closure."
訳:まだ乗り越えられていないなんてお気の毒。おかえりなさい、ベトナムへ。ちゃんと終わりにしましょう。

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《おかえりなさい、ソンミ村へ「ミレニアムにはベトナムへ」シリーズより)》(2005)
《Come Back to May Lai(From the series Vietnam Destination for the New Millennium)》(2005)
"Come back to My Lau for its beaches"
訳:おかえりなさい、ソンミ村へ。今度は素晴らしいビーチへどうぞ。

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《おかえりなさい、サイゴンへ(「ミレニアムにはベトナムへ」シリーズより)》(2005)
《Come Back to Saigon(From the series Vietnam Destination for the New Millennium)》(2005)
"Come back to Saigon!  We promided we will not spit on you."
訳:おかえりなさい、サイゴンへ!唾を吐きかけたりしないから。

ブラックなジョークが書かれた観光ポスター風の作品。

抵抗のための連帯 Alliance for Resistance
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《バリケード》(2014)
《Barricade》(2014)



アーティストと戦争 Artists and War
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《光と信念:ベトナム戦争の日々のスケッチ》(2012)
《Light and Belief: Sketches of Life from the Vietnam War》(2012)

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《闇の中の光景》(2015)
《Vision in Darkness》(2015)



今年は、ベトナム戦争が終結して40年目とのこと。日本にとっては、第2次世界大戦が終結して70年目の年であると同時に、7月16日に衆議院で安保関連法案が強行採決され、非常に重要な転換点に来ている気がします。この展覧会は、今一度日本の平和について考えるきっかけになるのではないかと思います。

ディン・Q・レ展:明日への記憶

会 期: 2015年7月25日(土)-10月12日(月・祝)
会 場: 森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
主 催: 森美術館
企 画: 荒木夏実(森美術館キュレーター)
協 力: 日本貨物航空株式会社、シャンパーニュ ポメリー、ボンベイ・サファイア

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13. THE ART OF THE COLONIES, 2013 
「植民地の芸術」
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7. THE PECKER AT THE SAP OF LIFE, 2015
「命の樹液を吸うキツツキ」

ベルギー人現代アーティスト、ヤン・ファーブル(Jan Fabre)による個展「Tribute to Hieronymus Bosch in Congo (2011-2013)」が、エスパス ルイ・ヴィトン東京で開催されています。
白と開放的な窓からなる広々とした空間内に、翠の玉虫色の美しくも怪しい光沢を放つ作品14点が展示。
何も知らずに作品を見ると、なんて綺麗な刺繍糸でできている作品かと錯覚してしまいましたが、よく見るとこれらの作品はすべて、昆虫のスカラベ(ブラジルタマムシ)の鞘翅(さやばね)を張り合わせて作られています。(写真下から2番目参照)

描かれている絵のモチーフは、ファーブル氏の母国であるベルギーが19世紀にコンゴに対し行った苛烈な植民地政策の歴史をテーマにしており、コンゴで行われた奴隷制度や金などの略奪行為、また賭博などが表現されています。
美しい色彩だけれど、極めてプリミティブな作品です。

ヤン・ファーブルの作品という意味では注目すべきでしょうが、技法的な新鮮さは感じられません。というのも、日本においては《玉虫厨子》が古来より伝わっており、玉虫の美しい輝きを持つ羽を使う手法は、遥か1400年以上も前に存在しました。

かのファーブル昆虫記で有名なファーブル博士の末裔でもあるヤン・ファーブル氏がこの玉虫の翅に着目して作品づくりをしているのは、興味深いです。

何万匹という玉虫の犠牲によって作られている作品のテーマが人間の暴力というのは、何かアイロニカルに思います。


幸せな誕生日

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今年も誕生日を迎えました。
なんとそのお祝いを、大手町のパレスホテル東京6階にあるフレンチレストラン CROWNでしていただき、
もう大感激です!

こちらのお店の特注ピアノケーキが、今年のアニバーサリーにはぴったり!
ということで、注文の多いなんとか...で、こちらのお店に来たい〜と我儘を言い、予約してくださいました。

台風11号が去ったばかりの、時より小雨も降る土曜日の夕刻。
素敵なディナーの幕開けです。

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食前のアミューズ・ブッシュ

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ベルギー産フレッシュキャヴィア
ポテトのムースリーヌを真鯛の燻製香で
67℃で火入れした地鶏卵とクレソンのジュ
Belgian caviar, creamy potato puree with sea bream flavor, 67℃ cooked free range egg and watercress jus.

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ちょうど私たちのテーブル前の窓(だけ)から、虹がいっとき見えました。
こういう偶然も、うきうきした気分にさせてくれました。

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鱸のムニエルとラングスティーヌ
夏野菜のミネストローネ風バジルとパルメザンチーズのペースト入りブイヨン・アロマートとともに
Sea bass meuniere and scampi shrinp
summer vegetable minestrone with basil parmesan paste in bouillon "aromates"

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キャレダニョーのロティ
黒オリーブのヴィエノワーズ風 カポナータのクロメスキ
ひよこ豆とシトロンコンティ パスティスの香るジュ
Roasted lamb chop, black olive "Viennoise" style
caponata croquette, chickpeas and lemon confit, anise jus

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French cheese selection
フランス産チーズを選りどりみどり。ブルーチーズや山羊のもの、カマンベールなど9種類のチーズから、食べてみたいものを取り分けてくださいます。

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選んだチーズにあわせて、はちみつやブランデー漬けのカシス、パンを一緒に添えてくださいます。

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食後の口直しのデザート

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こちらのお店は、伝統的フレンチをベースしつつモダンな「キュイジーヌ・モダン」。
料理長の市塚学さんは、2002年に「メートル・キュイジニエ・ド・フランス "ジャン・シリンジャー杯"」で優勝するなど、華々しい経歴と実力をもっていらっしゃり、その経験と実績から2011年パレスホテル東京 レストラン『クラウン』料理長に就任。
以降、革新的なフレンチが話題となっています。
食べログフレンチ部門のTOP100にも選ばれているお店です。

夕方6時からスタートして、刻一刻と黄昏ていく日比谷の景色を眺めつつ、素敵な食事を楽しませていただきました。窓の景色に目をむけるとビルの間から空に虹が出ていて、まるで一緒に祝福してくれているようです。

そして、どのお料理も創意工夫に富んでいて、素晴らしいの一言。
アミューズブッシュの3品もすごく手の込んだ品。左手前のヴィシソワーズは、下は大根で上にグリンピース。
前菜は2種類から選びます。私の選んだ半熟の地鶏卵の上に乗ったキャビアは、濃厚な味わいの卵2種がコラボした面白い一品。滋養と強壮にもよさそうです。ジャガイモのムースがキャビアと地鶏卵を包み込み、やさしい味にしています。ムルソーをボトルでいただきながのお食事は最高。
お魚料理もラム肉も、いずれも美味しかったです。

最後にデザートが出てきて、さあサプライズ。
お店の方5人による大合唱です。ちょっと照れてしまうものの、やはり嬉しいもの。
他のお客様の迷惑になっていないといいなあ〜なんて変な気を遣っているのを察してか、
「週末はだいたい1日2組くらいは記念日のお客様があるのですよ」と教えてくださり、肩の力がすっと抜けました。

ホテルレストランらしい、細かいところまで行き届いたサービスと対応は、流石だなあと思いました。
久しぶりにお洒落してでかけて、とてもハッピーな時間をすごさせていただきました。
こんな風に贅沢に祝っていただける私は、なんて幸せ者でしょう...
感謝の気持ちでいっぱいです。

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