小沢剛|帰って来たペインターF

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Chapter 1
深夜2時を回っても、彼らのバカ騒ぎは終わらない。
周りの客は誰れも彼もその後のとんでもない天才ばかりのようだ。
彼の制作はようやく明け方に始まる。終わる時間など誰も知らない。

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Chapter 2
大きな戦争が始まれば、根無し草の彼は祖国に帰るしかない。
20年ぶりの祖国で得た仕事は戦争の記録画であった。
彼の創作は戸惑いから始まる。いつしか時を忘れて没頭していた。

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Chapter 3
取材の為にアジア各地の戦場にしばしば派遣される。
インドネシアに足を伸ばし貴重な時間を過ごした。時々疑問に思うこともある。これは私の絵なのか?本当にやりたかったことか?

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Chapter 4
たくさんの犠牲と涙の末に戦争は終わった。
しかし、彼は制作の手を止めようとしない。
いつの間にか国のための制作で無くなっていたということなのか?

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Chapter 5
戦争が終われば世間も終わり、祖国には彼の居場所は無い。
彼が辿り着いたのはバリ。かすかにガムランの音が聞こえてくる。
パリ時代に出会ったヴァルター・シュビースの魂に導かれたのだろうか。

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Chapter 6
慎ましげな自宅で今日も朝から制作に励んでいる。
彼の人生で最も安らかで静かな日々であった。
名も無き画家としてこの地で人生を全うした。

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Chapter 7
何十年経ったのだろうか。日本に2人のアーティストがやってきた。
ペインターFが帰ってきたと歓迎され、たちまち人気者となった。
そんな日々も長く続かず、やがてまた争いが始まった。

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Chapter 8
一人は逃げていった。彼は新しい場所で以前と変わらない人生を始めた。
もう一人は、芸術の力で平和な世界を作ることを試みた。しかし、うまくはいかなかったようだ。
数十年後再びペインターFが帰ってきて、魔法のような絵を見せてくれるだろう。
(Painter F Song 歌詞より)

『もしも、こうだったら良かったのに、ああだったらいいのにと、歴史にもしもは許されないらしい。しかし、芸術に、もしもは許されるはずだ。
第二次世界大戦下の日本の画家達は自由な絵は描けなかった。その代わり戦争プロパガンダの絵を描いて戦争という国家事業に加担していた。芸術がもっとも残念な時代だった。
そんな時代に翻弄されたペインターFと名付けられた画家の人生を、「もしも話」で作品を作ってみた。
(中略)
今の日本は、再び戦前という時代になってきたと考える人もいる。私たちは歴史を振り返りながら、もしもこうだったらと、想像する力が必要だと思っている。

小沢 剛』
(以上、展覧会資料より抜粋)


ペインターFとは藤田嗣治をモデルに描かれています。
事実、従軍画家だった藤田は第二次大戦後日本で不遇な生活を強いられ、のちにフランスに帰化し、終生日本に帰ることはなかったと言われます。
ペインターFでは、舞台はパリではなくバリとして描かれており、これは小沢とインドネシアの芸術家達でつくりあげたフィクションとはいえ、史実をもとに描かれており面白いです。

展覧会資料を読むと、戦時中、従軍してアジア各地に派遣された画家が現地の人々と美術を通じて交流していたらしいとの記述があります。実際にインドネシアには啓民文化指導所という施設があるそうで、これは占領していた日本軍が1943年に文化政策として設立したもので、現地の若者に美術教育を行ったりもしていたようです。本作品の舞台がバリなのは、そういった背景があってのようです。
日本人の一方的な考えでなく、インドネシアの美術史家、ペインター、ミュージシャンらと複眼的な対話を重ね、今回は物語を作るところから作品制作まで全てを共同制作している点にも注目して鑑賞すると、作品が一味ちがって見えると思います。


本展覧会は昨年12月27日に終了いたしました。
記事は12月19日のレポートです。

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タイトル:小沢 剛|帰って来たペインターF
会期:2015年10月23日(金)〜12月27日(日)
会場:銀座 資生堂ギャラリー

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このブログ記事について

このページは、Nancyが2016年1月15日 16:14に書いたブログ記事です。

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