GW最終日、久しぶりに現代作家の展覧会に行きました。
清川あさみ「ITOTOITO」。
表参道EYE OF GYREにて開催中です。
今年は彼女の制作活動15周年だそうで、今回の個展はすべて新作のみ。
清川あさみさんといえば、名和晃平さんと今年ご結婚されたばかり...
活動15周年とあわせて、人生においても新たなスタートをきり、
本当におめでとうございます。
作品は大きく分類して3タイプ。
「I:I」フライヤーのビジュアルイメージにもなっている、写真をプリントした糸からなる
作品。本や楽譜のページに糸で刺繍した作品「わたしたちのおはなし」。そして、ギャラリー入口に大きく飾られた、ファッションスナップを西陣織りで制作された大作「TOKYOモンスター」。
ギャラリーに一歩足を踏み入れると、まずカラフルな書籍が目に飛び込んできます。
彼女が所蔵する文庫本や書籍、楽譜など100点に、刺繍という手法でドローイングした作品「わたしたちのおはなし」。
こちらは、シューベルト「楽興の時」D780 Op.94
一面縫い込まれておりテキストが読みづらいですが...
宮沢賢治の名作「銀河鉄道の夜」の蠍の火の物語のページ。
『川の向こう岸がにわかに赤くなりました。楊の木や何かもまっ黒にすかし出され見えない天の川の波もときどきちらちら針のように赤く光りました。まったく向こう岸の野原に大きなまっ赤な火が燃されその黒いけむりは高く桔梗いろのつめたそうな天をも焦がしそうでした。ルビーよりも赤くすきとおりリチウムよりもうつくしく酔ったようになってその火は燃えているのでした。「あれは何おの火だろう。あんな赤く光る火は何を燃やせばできるんだろう。」ジョバンニがいいました。「蠍の火だな。」カムパネルラがまた地図と首引きして答えました。』
山本周五郎「扇野」
中央上段 井伏鱒二「山椒魚」。中央下段 与謝野晶子「みだれ髪」。
谷川俊太郎「夜のミッキーマウス」
萩原 朔太郎「蝶を夢む」
ドビュッシー「月の光」
モーツァルト「ピアノ・ソナタ(KV.281)」
北原白秋詩集 邪宗門の「空にまっ赤な」
お隣の部屋は「I:I」という作品シリーズ。
自ら撮影したインスタグラムの写真をポジ色、ネガ色として糸にひとつずつプリントしアクリルに閉じ込め、ネガとポジの写真にあわせて生み出した作品。虚飾に満ちた記憶や風景の裏側にある日常を、ネガとポジで表現することで改めてリアルというものを考えたものだとか。
一つ一つにタイトルはありません。
こちらは、90年代の東京のファッションカルチャーを振り返りつつ、個性というもの、コンプレックスというものの本質を探った作品「TOKYOモンスター」。2014年から発表している作品モンスターシリーズを現代版モンフターとして、デジタル化や情報化社会に生きる人たちの心情や現代風景の写真を全て糸で表現。西陣織の老舗「細尾」とコラボで制作されたもの。
この3つのシリーズはどれも、とても興味深かったです。
なかでも、「わたしたちのおはなし」は、私の琴線に触れるものがベースにあり、長い時間この空間で魅入ってました。作家は私よりずっと若いと思うけれど、何か同じ時代を共有した親密感を感じます。少し黄ばんだ文庫本に綴られている文章は、言い回しがひと昔の文語で、(私には懐かしいけれど)今の10代には古典すぎる表現?
糸による美しい色や形象のドローイングは、物語と相まってとても素敵でした。
宮沢賢治の本が無性に読みたくなりました。