東京オペラシティで14日開かれた、ダニール・トリフォノフのピアノリサイタルに行ってまいりました。
最近、〇〇コンクールで優勝とか、アルゲリッチが絶賛、といったキャッチコピーに
興味を持てなくなっていたのですが、今日のコンサートはひとえに選曲が素晴らしい!(私好み)
という点で足を運ぶことにしました。
大好きなスクリャービンの幻想ソナタ、つづくリストのソナタも力量の問われる曲だし、
後半はショパンの24の前奏曲を全曲という構成はなんとも魅力的でした。
正直、ピアニストについては、名前以外情報らしいものは全然知らなくて、
前の晩、こりゃいかん!ってなもので、ネットでインタビュー記事や
Youtubeの演奏を聞いたりして、少しスタディをしました。
ダニール・トリフォノフは1991年3月生まれなので、現在22歳。
なんとも眉目秀麗な、まさにイケメン。
それは実に悦ばしいことでありますが、問題は演奏。
テクニックもかなりありそうだし、きっと上手なんだろうな...
それについて疑問の余地はありませんでしたが、
心に残るいい演奏会かという点では、正直賭けみたいなものでした。
そして、このコンサートが実に良かったのです。
ダイナミックな迫力のある演奏。
1曲目のスクリャービンは、少し感傷的すぎるかな?
という気もしましたが、若い男性ピアニストのロマンティシズムも悪くなく、逆にちょっぴり酔い心地です。
前半最後のリストのピアノソナタはまさに劇的な演奏で聴衆を沸かせてくれました。
速いパッセージの部分とメロディアスな聞かせどころの対比が強烈で、非常に印象に残るエキサイティングな演奏でした。
この演奏の圧倒的余韻で、休憩中どれだけの人がCDを購入しに売り場へ殺到したかしれないほどです。
演奏会後にサイン会もあるので、大変な売れ行きだったようです。
1階の後ろや2階の右側バルコニー席の空席が多少気になっていたので、
CDの売り上げが好調なのは興行的にも良かったです。
後半のショパンの前奏曲も、こうして1番から24曲通しで聴いてみると、
大きな流れのなかで様々な物語が紡がれており、味わい深い曲です。
それにしても、とにかく振動の伝わるダイナミックな音は印象的でした。
fortissimoからfortississimoのところになると、何かが反響しているようなノイズが聞こえるのは
私の幻聴なのか?
音響の良さで知られるオペラシティのコンサートホールで音が何かに反響しているなんて
ありえないと思いながら、不思議な気持ちで聴いてました。
もしかしてピアノが影響しているのかな?
そして、今回のコンサートで最大の関心はピアノでした。
FAZIOLIというピアノ。名前はどっかで聞いたことがあるような...ないような。
確かなのは、今までこのピアノの生演奏は耳にしたことがないということ。
家に帰ってきてから調べたところ、これがなにやらすごいピアノであるらしいことが判明。
1981年設立のまだ歴史の浅いイタリアのピアノメーカーですが、
こだわりにこだわりぬいた職人の技と材質と製造で年間100数十台しか造られていない
フェラーリのようなピアノなのだとか。お値段も不明です。
独立アリコート方式や4番ペダルなど、特殊な設計が特徴のFAZIOLI社製グランドピアノ。
4番ペダルは音色を変えずに音量をさらに小さくできるとのこと。
トリフォノフは好んでこのFAZIOLIを各地の演奏会で使用しているようです。
ピアニストの技量と音楽性と、特別に選ばれた楽器が織り成す
記憶に残る名演奏会だったと思います。
というのも、アンコール演奏がまた素晴らしかったからです。
作曲もしているというインタビュー記事を前日読んでいたので、もしかしたら
自作の曲を持って来るかな?と予測していたところ、まさに的中。
アンコールで立て続けに5曲。
小品ながら、オリエンタルな雰囲気もする綺麗な曲でした。
この5曲目で最後かと思いきや、最後の最後に「火の鳥」の「凶悪な踊り」をぶつけてきました。
こういう終わり方もドラマティックで、このコンサートの盛り上がりに相応しく
当然、客席のほとんどがStanding ovationで幕を閉じました。
お隣のご婦人は、彼のさらさらの髪が演奏中何度となく舞い上がる様子に
ときめきを憶えていたようで、漏れ聞こえて来る会話がとにかく愉快で
こちらまで笑ってしまいました。
笑顔の可愛いトリフォノフ君は、中年女性の心をすっかり虜に...。
将来の楽しみなピアニストであると同時に、
ポゴレリチのような変貌は遂げないで欲しいと、ちょっぴり思うのでした。
======= プログラム =======
スクリャービン:ピアノ・ソナタ第2番「幻想ソナタ」Op.19
リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S178/R21
ショパン:24の前奏曲 Op.28
======= アンコール曲 =======
トリフォノフ作曲:
ラフマニアーナ組曲 第1番、第2番、第3番、第4番、第5番
ストラヴィンスキー作曲 アゴースチ編:バレエ音楽「火の鳥」より"凶悪な踊り"
ダニール・トリフォノフのドラマティックなピアノリサイタル
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